2016年11月30日水曜日

(392) ありのままで(Let it go)

明日、アナと雪の女王のDVDが発売されるので買おうと思う。
 
松たか子さんが歌う「ありのままで」と
Idina Menzelさんが歌う「Let it go」
基本的には全く別の作品だと考えておいた方がいいと思う。
 
米原万里さんの、『不実な美女か貞淑な醜女か』(新潮文庫)という本があるが、
ロシア語/日本語、英語/日本語のような通訳はどの世界でも、
不実な美女(意訳して、相手に理解してもらう事を優先する)
貞淑な醜女(直訳し、原義から外れるリスクを避け、通訳者の勝手な解釈かもしれない言葉は使わない)
どちらがいいか、100%正しい答えが存在しない世界。
 
通訳をしている人もそれで食ってかないといけないので、できればお客さんに感謝して欲しいし、評価してもらい、給与を上げてもらい、次の仕事が欲しい。だから、顧客の状況等によってどこまで意訳するかが毎回違う。仲良くなったり、互いの文化を理解するのが顧客にとって重要なら、意訳の度合いを上げる必要があるし、間違いが許されないビジネスや外交の場での通訳なら、直訳以上の事をやり過ぎてしまうと、通訳者が会議自体をぶち壊してしまうリスクすらある。
 
英語だけではなく、ディズニーがいろんな国でローカル言語での表現に力を入れた『アナと雪の女王』のケースは、日本人の大勢の心を打ち、これだけ大ヒットした。もし、直訳にこだわり過ぎていたら、多分ここまでヒットしなかっただろう。つまり、現地スタッフを使い、日本人に伝わりやすい言葉や表現を選んで、日本語として違和感がない言葉の響きも考えて限りなく作詞に近い翻訳を行い、それを松たか子さんが歌った、と私は理解している。
 
これを踏まえて、let it goの英語の歌詞と、ありのままでの日本語の歌詞を比較すると、非常に興味深い。
 
(A) let it go (Idina Menzelさん)の歌詞
 
(B) ありのままで(松たか子さん)の歌詞
 
アメリカと日本の文化の違い/伝わりやすい表現の違いが表れているフレーズ
 
(A) Don't let them in, don't let them see.
Be the good girl you always have to be.
Conceal don't feel, don't let them know.
Well, now they know!
(B) 戸惑い傷つき
誰にも打ち明けずに
悩んでたそれも
もうやめよう
 
(A)の方は「いい子」を演じ、それを周囲に隠していたが、それが世間にバレてしまった、という趣旨。
(B)の方は周囲に理解してくれる人がおらず、ずっと辛い思いをしていた、という内容。、「演じる」という要素は割愛されている。
 
 
(A)The cold never bothered me anyway.
(B)少しも寒くないわ
 
(A)の方は、触れるものを凍らせる能力や寒さ自体は、私自身に嫌な思いをさせた事はない、という表現だが、その裏に「周囲の人はその能力に恐れを抱いてしまうけれど」というニュアンスが入っている。
(B)の方は、文字数制限もあるんだろうが、自分の状況だけを述べている。
 
 
(A) It's funny how some distance,
makes everything seem small.
And the fears that once controlled me, can't get to me at all
 
(B)悩んでたことが
嘘みたいね
だってもう自由よ何でも出来る
 
(A)の方は、街から離れてしまえば、世間のしがらみなんて小っちゃい事に思える。
自分が世間から距離を置いてしまえば、自分にとりついていた不安なんてなくなる、と解りやすく書いてある。
(B)は、文字数制限の影響もあり、心の内面が表現されているだけ。
⇒(A)の方は、職場や人間関係で悩んだ時など、仕事や学校から離れ、旅行や休んでしまえば、気持ちが楽になる具体的な方法論みたいな事が明示されている。
 
(A) It's time to see what I can do,
to test the limits and break through.
No right, no wrong, no rules for me.
I am free!
(B) どこまでやれるか
自分を試したいの
そうよ変わるのよ
 
これも、(A)の方が情報量が多い。
世間から飛び出してしまえば(世捨て人になってしまえば)、正しいとか間違ってるとか、ルールなんて関係なくなり、free(自由)になれる、とはっきり言っている。
(B)は感情、気持ちの宣言・確認。自分の心の内面に特化している。
 
(A)Let it go, let it go.
And I'll rise like the break of dawn.
Let it go, let it go
That perfect girl is gone
Here I stand, in the light of day.
(B)これでいいの
自分を好きになって
これでいいの
自分を信じて
光浴びながら
 
(B)の表現は日本語ならでは。
『自分』を強調し、自我の確立を応援するようなフレーズ。
(A)は完璧ないい子なんてもう目指さない、世間にはもう迎合しない、という宣言になっている。
 
これらの違いによって、雪の女王(姉のエルサ)は、
英語版は力強く、たくましく強く、周囲の言う事を気にしないはっきりした性格の人物像なのに対して、
日本語の方は周囲の状況についての直接的表現が少ない一方、おとなしく自信がない自分(だから、周囲に合わせて空気を読んでばかりいる)が、独立した自我を身につけるプロセスを表現する、みたいなイメージの曲になっているように思う。
 
どちらの歌も、それぞれの良さや特徴が出ていて、非常に面白いと感じる。
 
DVD買った後、それぞれ何度も聞いてみよう。

0 件のコメント: